荻清隆 心の相談室

西日本心理療法センター 荻清隆(おぎ きよたか)

【住所】〒815-0036 福岡市南区筑紫丘1丁目12-1-519
【問合】TEL/092-561-4711 携帯/080-5249-8554

  • 1930年/久留米生まれ。
  • 1973年/西日本心理療法センターを開設。催眠・内観・交流分析・ゲシュタルトなどの心理療法により、1500以上もの臨床を手掛けている。
  • 1975年/同センター内にオギNT研究所を併設。独自の心理療法を開発する一方、多くの企業での企業内教育や市民講座や講演活動なども行っている。
こころの相談室「荻先生の診療日記」 ご購入のご案内

荻先生の診療日誌

【著者】荻清隆 【頁数】178P 【体裁】B6版
1991年1月~1995年7月まで、「GANSO求人ふくおか」に連載された「荻先生のメンタルヘルス」を再編集した「荻先生の診療日記」を販売しています。 便箋に、住所・氏名・年齢・性別・連絡先を記入の上、1,000円分の切手を同封し下記住所までお送りください。お申し込み郵便到着後数日中に発送致します。

〒810-0023
福岡市中央区警固2-13-21
パインヒル警固3階
(株)アビリティ・キュー内
「荻先生の診療日記」購入希望 係

うつ症からの脱出

私は暗い道を歩いている。足元に深い穴がある事に気づかずその穴に落っこちる。私はどうしようどうしょうと、もがくが穴から上がることが出来ない。何時間も、何日ももがき続けて疲れ果てて眠り込んでしまう。眼が覚めると上の方から微かな光が射し込んでいる。その光を頼りにやっとの思いで穴を抜け出る。太陽を見ると眩しくて頭がくらくらしていたたまれなくなり、ふらふらと家に戻る。

私は暗い道を歩いている。足元に深い穴がある事に気づくがまた落っこちる。自分が落ちている事が信じられない。自分は間違っていない。この穴を掘った奴が悪いんだと思い、恨み復讐を誓う。今度も前回と同じやり方で長い時間をかけて上に登って家に戻る。

私は暗い道を歩いている。手に穴を埋めるためのスコップを持っている。穴のそばまで行って穴を埋めようとしているうちにまた落っこちる。私は何故落っこちたか、その原因が自分にある事に気づく。今回は前回よりも早く上に出て家に戻る。

私は同じ暗い道を歩いている。深い穴から少し離れたところを通っていると、別の道がある事に気づく。その道の入り口で不安を抱えながらも、勇気を奮って歩き始める。しかしこの道は家の方には向いていない。

私は新しい道をゆっくりと歩いている。次第に夜が明け、明るくなると前方に美しい山が見えて来た。そこに私の幸せがあるようだ。もう家には戻らない。

これはうつ症の方が治っていく過程を書いたものです。

人は生まれ育つ環境の中で、親、兄弟、友人、教師など触れあった人たちから、どんな影響を受けたか、本人がどのようなメッセージを受け取ったかがその人の「人生脚本」を決めます。そして本人が好むと好まざるとに関わらず「人生脚本」の筋書き通りに人生を送ります。何度も受験で失敗する人、結婚に失敗する人、仕事で失敗する人、人と親しくなれない人等、失敗を繰り返す人は、自身の「人生脚本」を変えようと決心しなければなりません。

① 自分の「どこの部分をどのように変えたいか」あなたの望む事を具体的にわかりやすく、肯定的な言葉で紙に書き出します。

② あなたの望む事が本当に出来る事なのかを考えます。それには過去から現在までに、その事が出来た人が世界中で一人でもいるかを調べてください。いれば変える目標として適切です。ただし、「私は人と親密になる」のような漠然とした言い方ではなく、「私は今年中に三人の友人を作る」と、だれにもわかるような目標にします。

③ 自分に対する値引きをやめます。

④ 現状を変えられないのは、そのことが何かの役にたっているのかを調べてください。例=嫌な事から逃げるため、誰かに対する復讐、他人のせいにして自分の責任から逃れている。

⑤ 目標達成するために実践することを五つほど紙に書き出して、毎日実行できたかカレンダーに書き込むとよいでしょう。

それでは数日前に相談に来たAさんを例に話しましょう。

Aさんは、28才の独身で通信大学の学生です。彼は両親と3才年上の兄との四人家族です。父親は、工場で溶接工として働いていますが、家族に対してまったく無関心で、子供とは話したこともなく、母親とは必要最小限の話ししかしません。

父親は3才の時、養子として祖父母の家にきて、厳しい環境の中で育ちました。母親は5才の時、両親が離婚をして、母の姉に預けられましたが、その姉婿に性的虐待を受けたそうです。そこで中学校を卒業すると直ぐにある工場の寮に入って働きました。そしてその工場で働いていた父と出合い結婚しました。

Aさんは子供の頃から毎日、母親から父親や兄に対するグチを聞かされてきました。また兄は中学生になった頃から急に彼に対し、カンシャクを起こしては暴力を振るうようになりました。しかし、兄の暴力を止めることはできませんでした。

このような家庭環境の中で育った彼は、「自分は無力だ!自分はこの世に生まれてきてはいけなかったんだ!」と確信するようになりました。そして、次第に自分の手首を切ったり、現実から離れる乖離現象(一種の統合失調症)を起こすようになりました。

このような事がわかったので、自分のどこを変えたいか?一週間後に将来の目標を紙に書いて持って来るように指示をしました。一週間がたち、やって来た彼は一枚の紙に顔の輪郭と思われる楕円形だけを描いた紙を差し出しました。私が、どうしたの?と尋ねると、彼は、頭の中に何も文章が浮かばない。イメージもこの紙の絵のように何ひとつ出てこない。と答えました。

これでは催眠もカウンセリングも行うことができないので、音楽療法を行うことにしました。

まず彼をボディソニック(体感音響装置)の上に寝かせて、彼の故郷の情景を思い浮かべるように指示をしました。10分ほど川のせせらぎや小鳥の囀りがきこえてくる曲を聴いてもらいました。

続けて「故郷」・「赤とんぼ」・「夕焼け小焼け」の曲を聴いているうちに 彼の表情が次第に明るくなって、肌もほんのり赤味が差して来ました。すると彼は子供の頃の思い出を話し出しました。彼が近くの川や山で遊んだ様子や、兄の暴力から逃げて村の森にあるお宮の中で一夜を過ごし、とても悲しく怖かったことなどを話していると、彼の目から涙が流れました。

それから1週間後に来たときには、紙に

① 今年中にアルバイトをして、自動車の免許を取る

② あと3年間で通信大学を卒業して運送会社で働いて300万円貯める。

③ 今までは自分は他人よりも劣っていると思っていたので、家から出られなかった。しかし通信大学でヘブライ語を勉強しているので、通信大学を卒業したらイスラエルに留学して政治家になれば、自分の劣等感も無くなると確信している。

と書いてきました。次に私が貸したCDレコードの音楽を毎日聴くよう指示をしました。

1.グリーグ作曲「ペール・ギュント」組曲の「朝」

2.ベートーベン作曲「エリーゼのために」

3.サン=サーンス作曲「白鳥」

4.ヨハン・シュトラウス二世作曲「美しく青きドナウ」

5.スッペ作曲「軽騎兵」序曲

以上の曲は誰もが知っているクラシックの曲ですが、音楽は心を安らぎ癒してくれます。普通はご自身の好きな曲、例えば歌謡曲やジャズでも良いのですが、治療に用いる場合は、クラシックの方が心の安らぎと共に、心の整理ができることが証明されていますので、このような曲を聴いてもらいます。

彼はその後、私の選曲した多くの曲を毎日聴いて、カレンダーにその日のこころの状態を書き留めてくれました。今では職場でも皆と協調して楽しく働いています。

音楽療法は、言葉よりも心に受け入れられ易いので、良い効果が期待できます。

* ボディソニックは、リクライニングシートの両耳の近くにスピーカーがあって、音楽が聞こえて来るときに、重低音による響きが体全体に感じられる様になっています。

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